先日亡くなった隣人の告別式は、日野駅近くで今日行われ、終わった後、少しこの近隣を歩こうと思った。つうのも、小学6年の暮れから中学1年の夏まで、日野の多摩川沿いに暮らしていたこともあり、さらに中学はこの辺りの学校で入学したし、なんとも懐か感がこみあげ。で、歩こう。そうそうその頃住んでいた家まで歩いてみよう。と。
さらにさらに
「土方歳三は石田(日野の近く)の産でしたっけ?」
「いやいや万願寺。記念館もあるし、遺骨はないが墓もある」
という斎場行きのタクシーの運転手の言葉も効いた。
恥ずかしながら土方歳三好きなのです。土方の半生を書いた、司馬遼太郎の「燃えよ剣」は最高。その辺りも歩いてみよう、と。万願寺は住んでいた家から遠くはない。これは歩ける。
日野駅裏の家族でよく来た風呂屋は、やや場所を移し、まだあった。この辺はドブ川が多くあった記憶があり、そのドブに板状にコンクリートが敷いてあり、歩く度に、こつこつ、という音がしていたと思い出すのだが、いまでは綺麗な道に変わっている。ただし、ドブは小さく存在していて、
「ちょっとは思い出す??」
なんて感じで。ありがとさん!
天下の悪所、墨東は玉の井も、ドブの町だ。昔の男はドブの匂いを求めて女を求めていたんだろう分からなくはない。この、日野宿もそうだったんだな。
中学への通学路を、逆に家に向かい歩くが、まったく変わってしまっている。多分。記憶薄いよねーもう。ただし田舎道の雰囲気は残っているはず、と勝手に信じて、
「あ、土方は昔この辺で女に悪さしたんだな、ふふふのふ」
な〜んて勝手に想像して、ふらりふらり。
確か、通学路の周りの殆どは田んぼ、畑、だった気がするし、実際に草をとったり小川で小魚見たりしたことを憶えているが、いまではたんなる新興住宅地。その変わり様にちょいと、ひく。ここはどこ?ここまで町は変わるんかい!状態だよね。クラクラする。
「ああ、こいつのせいか」
とは見上げた空を走る多摩モノレール。数年前モノレールがこの辺りを走るようになってから、景観は豹変してしまった、のだろう。前は無かった道も多い。記憶とのズレがあまりにも大きく、異次元空間、なんだ、俺は知らない町?という妙な哀しみ、大袈裟だけど感じたり。
それでもほんの少しだけ、以前と変わっていない(ハズの)農地の草などあって、、、いやいや、それでも、最早この辺りは俺とは関係なく、時間過ごして来たんだろな?とか訳分からん心持ち。
15分ほど歩き、あの信号の左が昔の家、まで来る。あれ?あ?そうそう。22歳くらいの時、一年ちょい、中学時代の家の前にあったアパートで一人暮らししていたことを、ここまで思い出せなかった。
「え?じゃあこの辺はそんなに懐かしい訳では無い??」
記憶のラビリンスにはまる。
アパートはまだあった。大胆にも敷地内に突入。俺の住んでいた部屋はまだある。あ、こんなドアだったっけ?なんて感慨に。ノックしそうになったが、やめといた。阿呆ではいたいが、野暮ではいたくない。敷地に出る。目の前にあったハズの風呂無しの家は無い。
「まあ、そうだろう。」
それどころか、アパート時代お世話になったデカスーパーもない。洒落たマンションに変わっている。でも小汚いトンカツ屋はまだあった。
「でも、俺はもうここの人間ではない」
喰えないよ。過去が俺を拒否している。
記念館を目指し浅川方面へ歩く。昔の通りは全く道を変えている。それでも、記念館発見!!ン?
「2005年3月まで改装中。オープンはH.P.参照」
とのこと。ハイハイ。しかし、土方を感じることは出来た。銅像を門扉の外から見、
「こんな男じゃあないだろう」
新選組の旗が初春の風になびいている。おまけにこの辺の家、全部、土方さん。中学入学の際、「可愛い、な、」と思った女も土方さんだったと阿呆みたいに思い出す。クラスにはもうひとり土方さん、という女いたし。
ありがとさん。
高幡不動尊まで歩いてもそんな距離はない。昔のバス通りだ。片側一車線の狭い道が、真ん中にモノレールを頂き、二車線の大通りに変わっている。少々むなしい。
「ああ、なにもかも変わったんだな」
浅川の橋にかかる。散歩中のワンコが、俺の匂いを嗅ぎに来る。
「カツ喰らっときゃよかった」
と腹ペコになりつつ川を見る。ふんふん・・・
「なんだ、川だけは変わってないんじゃん!ぐはは!」
歩いていてよかった。中学時代にちゃりんこで遊びに来た川、アパート時代にバイクに乗りながら見た川。川だけは変わっていなかった。記憶が繋がる。少し嬉しい。
遠くまで川を眺めていたら、雲の切れ間から太陽が光線出していた。久しぶりに太陽光線、見た。斜めに、まるで土方の剣のように、尖って出ている。綺麗だな。みんな見ているかな?
高幡不動尊を参り、そばの蕎麦屋「増田屋」でカツ丼と熱燗を喰らい、焼酎を買って帰宅。
呑む前にビデオを見る。黒木和男の「祭りの準備」と川島雄三の「幕末太陽伝」。どちらも一昨年亡くなった、ゴールデン街のジャズバーのママにもらったものだ。
何度見ても良いものはよい。
死は全てに平等かい?などと思い映画を見つつ、隣家に灯が灯る。
「帰ってきたのかい」
どちらからともなく言う。
おっちゃん、ありがとさん。